うちの家は、かつて京都・八坂神社のそばで、
左官屋を営んでいたそうです。
屋号は「森田安(もりたやす)」。
家族の記憶の中では、曾祖父の時代までは続いていたその仕事も、
戦争の混乱の中で、屋号とともに姿を消してしまったと聞いています。
左官屋さんって、何をする仕事なんだろう。
そんなことを、ずっとぼんやりと思っていました。
土や漆喰を重ね、壁をつくる。
湿気や寒さをやわらげ、光の反射や音の響きにも関わっていく。
そう考えてみると、左官という仕事は、
ただ壁を塗るのではなく、
「空間の空気を整える仕事」だったのかもしれません。
派手に目立つものではないけれど、
人が安心して暮らせる場所をつくり、
その家の“居心地”を、静かに支えている。
壁を塗るように、
少しずつ空気を重ねていく。
そんな感覚が、自分の中にも
どこか流れているような気がしています。
だから、この失われた屋号を、
今の時代にもう一度呼び戻してみることにしました。
もちろん、壁を塗るわけではありません。
音楽や、ことばや、写真。
人との出会いや、そこから生まれるもの。
そうしたものを通して、
人の暮らしや心に、安心できる「場」をつくること。
その場の空気を、ほんの少し整えること。
今はまだ、
何をする場所なのか、どこまでやりたいのか、
きっちりとは決めていません。
むしろ、最初から形を決めすぎずに、
この屋号の下に、人や音楽やことばが集まって、
なにか楽しいことや、美しい時間が、
少しずつ生まれていけばいいなと思っています。
「安」という字は、
屋根の下に人がいて、安らぐ姿を表すともいわれます。
古い屋号「森田安」を、
今の時代の感覚でもう一度。
「もりたやす」から「もりた・あん」へ。
MORITA・an
Mika Morita
2026.08